「………フィンセント…」
「えっ?いや、もう一個、残ってたから味見っ……あっ!」
ウェブは黙って、フィンセントから、ホット・ドッグを取り上げた。
「何するのさ!」
「カロリー過多で大事な同僚に倒れられたら困る。もういいだろう…別に食べて来いと頼まれた訳じゃ無い」
「でも、味見……」
「LSDでも入ってたら、困るからね…実際、そう言う店が以前に在った」
「ボクは毒見?」
フィンセントは苦笑した。
「いや、二人いれば、見ていれば判るだろうと思っただけ…ほら…」
ウェブは一口、ホット・ドッグを、かじると、フィンセントに渡した。
「味が気になるなら、フィンセントも一口だけ、かじればいいよ」
「………!」
食べかけのホット・ドッグを渡されて、フィンセントは一瞬、固まると、手元のソレを扱いに困るように、
不可思議な表情で見つめた。
「さっ、帰ろうか…もう、こんな時刻だよ、何せ土星は終電なんてものがある…」
手元の時計が深夜12時を過ぎたのを確認して、ウェブは歩く速度を速めた。
「あ、待って!」
まだ、その場に固まって居たフィンセントは、高鳴る鼓動を沈めつつ慌てて彼女の後を追った。
(こ…これって、間接キス……になるよね…?)
誰に断る訳でも無いのに、内心自己に問いかけながら、フィンセントは、食べかけのホット・ドッグを見つめた。
「…食べないなら、仕舞うか捨てれば?」
「えっ?!」
いつの間にか、両手で、ぎゅっとホット・ドッグを握り締めていた彼人をウェブは不思議そうな顔で、
見つめていた。
「た、食べる、食べます!だから、じっと見ないでください‥」
「……(何故、敬語…)」
最早、自分でも正体不明な、ときめきを覚えつつ、フィンセントは口元に、ゆっくりと、それを運んだ。
「……む?!」
「地響き?!」
二人は同時に後ろを振り返った。
煌びやかなネオンの通りの真ん中に、夜目でも判る黒い塊が押し寄せて来るのが見えた。
「…! フィンセント避けろ!」
「えっ?! うぁっっ!!」
フィンセントは手元のホット・ドッグを地面に落とすと、近くの店舗の壁際に飛びついた。
その刹那、大量の黒い塊は勢い良く二人の足元を通り過ぎて、反対側の道路の向こうへと消えていった。
「危なかったな…」
数秒後に、元の平穏な通りに戻った歓楽街を歩きながら、ウェブは同僚に話しかけた。
「………夜なのに」
「食べ物なんて持ってたら、一緒に齧られてたかも知れない、気をつけないといけないな、やれやれ…」
「行政は何やってんだよっ、ボクの間接キス返せっ!」
「………」
一瞬、周りの空気が凍て付いた。
「…ぁっ!!」
「…間接…何…?」
冷ややかな、目線で見詰められて、フィンセントは、焦って口元をパクつかせながら、やっと声に搾り出して答えた。
「…間接……『間接キック』……だよ…っ、さっき、鼠が通り過ぎた時に、少しぶつかったんだよ!」
「なんか痛そうだな…」
少し、表情を和らげた彼女の様子に、そっと胸を撫で下ろしながら、同時に胸の奥に、滲み出る様な
悲しみの念を感じて俯いた。
「………」
「どうした?どこか、痛いのか?」
「ちょっと足首と手を引っ掛かれた‥大したこと無いよ‥」
「見せて‥」
ウェブは彼人の手首に自分の手を、そっと置いた。その手を、退けて頭を振りながらフィンセントは答えた。
「大丈夫だよ、帰ってから消毒すれば‥」

次へ
前へ戻る


TOP
プロフィール
イラストレーション
自作ゲーム
ブログ
BBS
ティー・ブレイク
風の大使SS
リンク