今月もTOPえ?
【さざ波のかけら】
宇宙の滴から生まれたあの子は、波の立たない海辺に着いた。 さあどうする?
どうしよう・・。
少し迷った足下を、一匹の蟹が忙しそうに走り周り
巣穴の中に飛び込んだ。 と、同時に潮が、勢い良く満ちていく!
「!」
今がその時なのだ。あの子は瞬時に気が付いた。
そしてそれから・・。 ゆっくりとうらりゆらりひかる渦を通り、波に気づかれないように波の立たない、波うち際に立つ。そして、てらてらと照る太陽の端っこを吸い込んで、その中に潜り込んで行く・・・。
「すすす・進まなきゃ」
初めてのことに戸惑いを隠すことが出来ない体は少しもつれながら、底に沈むごとに、浮かび上がり、下に降りるごとに光の距離から遠ざかる。 暗い静かな海は、小さな体には重たすぎて・・。他の生き物達の姿をあの子から隠す。
孤独に打ち負かされそうになり、それ以上に息が苦しくなる。
あの子は考えて見る。
「きっともっと楽な方法も有る筈なの」
それに答えるかのように、頭上の水面をモーターボートがどどどと通り過ぎていく。 台風に流された大きな白い洋館の端っこを掴んで、束の間の休憩を取りながら、流れるボートと乗る人の後ろ姿を見送る。
いいなあ。。
だけど、あの子は知らない、あの直後にモータボートと乗る人は、大きな渦に呑み込まれていったことを。スピードの付きすぎた機体は、勢い余って人の手では止めることが出来なかったことを。
さあ、もう一度行こう! 息を大きくゆっくりと吸い込んで。再び海へと泳ぎ出す。 遠くに鯨の影が見える、少し嬉しくなって、あの子は近づいて見た。だけどそれは・・・。巨大な海のミラーが造り出した影のトリック。
「ねえ・・」
小さな傷だらけのイルカは、スクリーンに映された自分の影に語りかける。
「苦しいよ。」
気持ちとは裏腹に止まることは出来ない。沈んでしまうから・・。
「?」
息を吸い込もうとした その反動でぐおーーんと
体が後ろに戻った。こつんと後ろに何かがぶつかった。
「!」
振り返るとそこには・・・。
小さな小さなイルカがいた。その後ろには、小さな小さな小さなイルカ。その後ろには・・・・・・・・・・・・・。
光の滴。
〜 fin.〜
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(C)のなすいま.