『風の大使U』第0章 作:nosuma
凍えるような大地の上を一歩、一歩
確かめるように踏みしめる。
靴を履いた足の中にさえ、その冷気は
染み渡って来た。
だけど、あの言葉に比べれば、
こんな寒さも、如何程のものでも
無かったのかも知れない。
『俺の言うことに逆らうな』
『俺の言うことに常に従え。』
あの人の口から、それがこぼれ落ちた瞬間に、
世界の流れは濁流の中に飲み込まれ、
やがては氷の中に閉ざされていく。
『だが、俺には、いつも最上の優しさを示せ。』
『 俺が寂しい時には慰めて、苦しいときには
褒め称えろ。
俺には惜しみない愛を』
【………。】
あの人は感慨も無く、只、繰り返しそう言い続けた。
『おまえには、真のココロの痛みとムチと罰と罵りを』
あの人は感慨も無く、只、繰り返しそう言い続けた。
そして……………。
次は私の答える番。
只ひと言だけ、手短に。
「私はそれに背を向ける。」
生き延びるためには時には残酷さも必用。
だけど…それに振り上げる拳は決して必要無い……。
END.